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           メール・マガジン

      「FNサービス 問題解決おたすけマン」

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    ★第151号       ’02−09−06★

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     ラ・マンチャの男

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●もう亡くなって10年近く、

 

しかも晩年(と言うには早すぎた享年61歳)は本業よりグルメ番組の

レポーター役でTVに出る方が多かったので、人によっては彼の歌い手

ぶりをご存知ないかも知れないバリトン、友竹正則氏。

 

時季も故人を偲ぶにふさわしいお盆でしたが、たまたまエンタメ報道が

彼を想起させてくれました。 それは去る8月19日、帝国劇場で上演

1000回を記録した松本幸四郎主演のミュージカル、

 

「ラ・マンチャの男」。 昭和44年の初演以来これまで23回の国内

公演のうち、初め13回平成元年までの20年は彼が<神父>を演じて

おりました。 だから観に行ったわけで、第14回以後は全く行かない

 

という偏向型、、にしては、彼がその役を降りた(降ろされた?)経緯

を知らずにいたのは迂闊。 外見ほど体調は良くなかった、のかも。

 

食い道楽の広島っ子を自称していましたから、グルメ番組に起用された

のは本懐であったろうけれども、律儀な性格が災い、出てくるご馳走を

テイク回数分すべて真面目にテイク?して肝臓を悪くした、という説が

あります。 時たま過敏で気難しかったのも、体調のせいだったかなあ、、

 

いずれにせよ希なる名歌手を失って悲しかったし、普段の私が知る機会

の無い世界を垣間見せてくれた人だけに余計、プッツリ感がありました。

 

小ホールでのリサイタルも素晴らしかった。 気取らず、身近な情景を

歌にしてジーンと来させる詩人でもありました。 そう、テナーやバス

では非日常的、親近感はバリトンに限る。 「歌のおじさん」たる所以、、

 

 

その彼と出会ったのは1968年2月、初めての欧州旅行、ロンドンで。

ベイズ・ウォーターの一角に軒を並べる下宿屋風ホテルの一つに泊まり、

例によって昼間は工業的展示会や施設を駆けめぐり、

 

夜はミュージカルを片っ端から、、のためロビーでチケットを手配して

いた私に、デップリした長髪の、いかにも外国慣れした顔つきの、妙に

貫禄のあるコートを着た男が親しげに近寄ってきて、

 

あれは観たか、これは未だか、そこへ行くなら一緒にどうだ、など話し

かけるのだから第一印象、<不慣れな旅行者をカモにする現地浪人>。

その日カミさんへ書き送った手紙には、

 

「ヘンな日本人に声をかけられた。 同じ宿に泊まり、同じ種類の音楽

を漁る、、 偶然かも知れないが、用心しなくちゃ。 声楽家と称して

いるが、君はこういう名前、知ってるかね?」云々。 後日、我が家を

訪れた彼にそれを(もちろん謝りながら)見せたのは間違い。 笑って

済ませてはくれず、アッサリ許してもくれなかった。 広島っ子気質?

 

しかし「ヘンに思った」のは彼の方も。 <技術屋>がどうしてこれ程

ミュージカルに詳しいんだ? そのくせ「日本の音楽家は全然知らない、

認めてない」だと?  「トモタケ?? はあ?」だと?! 

 

アル・ジョルスン、エセル・マーマン、ジュディ・ガーランド、、でも

なかったら<歌>じゃありませんぜ、なんて蛇に怖じず、私もヌケヌケ

ほざいたものでした。 いや、その考えは今も変っていませんが、、 

 

*   *

 

たまたま彼がひどい風邪をひき、隣り部屋だったのが幸い、手持ちの薬

を進呈したりするうちお互いヘンでないことが分かり、情報交換の密度

も高まる中で、、 「あれ?<ラ・マンチャ>未だ観てないの?!」

 

それ何? 「え?知らないの?」 あからさまに軽蔑する人でもあった。

「つまりドン・キホーテさ」 へえ? 瘋癲老人の話がミュージカル?

気乗りしないなあ、、

 

「NHKの<ドレミファ船長>なる役を終え、次に備え充電のため世界

一周中」の彼、「ブロードウェイでも<ラ・マンチャ>は観たが、ロン

ドンの方が遙かに良質。 観なさいよ」と高圧的。 (<貫禄コート>

は<船長>の服、<ラ・マンチャ>は神父役の勉強、、だったんだ、は

後日の納得) でも、お勧めに従って良かった。 <感動した!>! 

 

旅先だけの縁、と思ってたら帰国後のある日、「帝劇でやる。 神父で

出る。 観に来い」と誘ってくれました。 本当に歌えるんだ、と認め

させたかったらしい。 で、カミさんと出かけ、素直に<認め>ました。

 

それにしても(歌詞は日本語だが)アチラのと全く同じ声、同じ調子、、

ちょっと<勉強>しすぎたんじゃ? 「トンデモナイ! 違えたら著作

権侵害、キビシイんだぜ」 知らないのか? また軽蔑されてしまった。

はあ、そういうもんなんですか、、 無知イコール無力。

 

*   *   *

 

驚いたのは、歌が本職でない染五郎(当時)が朗々と歌いこなしていた

こと。 何にでもなり切る、やはり役者だなあ、、と。

 

枯れ木のように細身であるべき役柄、若い彼はスッキリ見えて良かった。

歌舞伎で見得を切ることに慣れている点、誇張表現の多いミュージカル

には有利だったかも。 彼がニューヨーク公演に挑んだのは

 

その翌年。 ずいぶんいい度胸だったとは思うが、各国のキャストの中

でベスト、と評価されたのだから立派です。 彼をその役に得たことが

日本の<ラ・マンチャ>ファンの幸運でした。

 

その彼も還暦、細身ではなくなった。 が、未だマシ。 たしか1970年、

シカゴはシューベルト劇場で観た<ラ・マンチャ>はファルスタッフ役

にこそピッタリのホセ・ファーラーが演じ、私は目を覆って聴きました。

 

それを友竹氏に報告したら、ウン、あれで彼のキャリアもおしまいだと

言われてるね、、。  そういうミス・キャスト、時にあるんですなあ。

 

**********

 

 

 

●今回の公演、アルドンサ役は

 

愛嬢松たか子。 観もせずに言うのは失礼、と承知で申しますが、私は

賛成しかねました。 いかに<演じる>のが役者でも、あれは彼女の柄

じゃない。 キレイ爽やかCF似合いの<清純派>が安宿の飯盛り女?

 

男なんか屁でもない太々しさ、馬喰たちのアイドル、、1972年の映画化

では、遙かにグラマーで野性的なソフィア・ローレンが演じていました

が、彼女ですらアバズレ度の点では不十分。 加えて

 

過激な演技の部分もあるからでしょう、初演の際は草笛光子、浜木綿子、

西尾恵美子のトリプル・キャストで備えたくらい。 若すぎてはダメな

役柄、でもある。 ところが某日のプロモーション番組で、

 

 

準主役上条恒彦が松嬢について問われ、「いいねえ、上月、鳳に負けて

ない。 若さという面では、お二人の上を行くものがありますからねえ。

すごく良いですよ」 立場上、<悪い>とは言えません。

 

ほかに誉めようが無くて、の<若さ>強調? じゃ、ほかの<面>では

どうなんだ? と突っ込まない取材者、質問力が足りないなあ。 彼女、

オーディションで勝ち取ったのか? 誰を蹴落としたのか?って訊けよ。

  

一方、<ラ・マンチャ>サイトへのファンの書き込みは一様に<必死の

声援>風。 適役!と見ている人がいない、ということ。 !と見る人

は父親幸四郎。 その番組でいわく、

 

「従来のキャストの皆さんとやっていると、気心が知れ合っているだけ

に、よく言えば、非常にツーと言えばカーというか、馴れ合いというか、

惰性のようなものが、どうしても長年やっていると慣れみたいなものに

なってしまう。 (まるで長島サン風)

 

ひとり、松たか子という女優が入ってくれたお陰で、ポーン!と、こう、

非常に、稽古場なんかでも、すごい刺激になるんですね、良い意味で」。

 

要するに「新しい要素が刺激になる」んだそうで。 何をおっしゃる?

7年前からアントニア役で<入って>いるのだから、<新しい要素>で

なんかありゃしません。 <新しい<不安>要素>なら分かるが、、

 

むしろ「役者の家に生まれて、親子で一緒の舞台を踏む。 こんな幸せ

は無い。 子供たち二人がラ・マンチャの男に出て、紀保がアントニア、

たか子がアルドンサをやる。 これは、いくら望んでも出来ることでは

ない、奇跡!」が本音。 これは<梨園の常識>的発想、舞台の私物化。

 

ナレーションでは「日本でブロードウェイ・ミュージカルを演出すると、

良くも悪くも、段々<日本ミュージカル>になる。 ブロードウェイの

迫力、スピードも日本的になる」としていましたが、どうやら

 

幸四郎ラ・マンチャはキャスティングからして日本的になってしまった、

ようです。 ご一家のご盛大はめでたいが、彼らの自己満足に金を払う

客は余計お目出度い、、 おっと、これは八つ当たり、失礼。

 

 「際立った収穫」という新聞(東京8/22夕刊)評もあってホッとした

 が、同時にその評者は「過去に名女優たちが演じてきたキャラクター

 とは異なり」と、<違ってしまった>こともその評者は認めている。

 友竹氏の言を信じるなら、著作権侵害、かも。

 

 次いで23日のTVでは「独占告白松本幸四郎支えた妻と娘感動秘話」。

 おお、<日本>! しかし、働く男を<支えた妻と娘>なんて、どこ

 にでも転がってる話でしょうが。

 

*   *

 

かくて一座の長、かつ一家の長たる幸四郎氏、このキャストで必ず成功

させなくてはならず、今まで以上に入れ込んだのは当然。

 

その姿を上条、「ボクらはねえ外へ出てね、タバコ吸ったり、コーヒー

飲んだりバカ話したり、気分をリフレッシュして解放して、また稽古場

へ入るっていう時間があるんですけど、幸四郎さんはずーっと詰めてる

でしょう。 1分たりとも休んでない、、」

 

そんなのアタリマエだよ、上条さん。 小企業のトップはみんな<四六

時中>。 社員を率いて、あるいは一族のため、特に自分のため命がけ。

<1分たりとも休>まずアタマを働かせ、、 でもバカをやってしまう。

 

その第一が人材の採用・起用。 NHK1<変革の世紀>8月17日の

<インターネット大討論>では、<上>が選ぶのはバカばかり、の指摘。

哀しくもそうなるのは、モノサシの違いゆえ、でしょう。

   

たとえば幸四郎氏の、「まあ、子供たちが生まれて、だんだん成長して、

僕も年を取ってゆくうちに親子関係ってものがだんだん薄れてきて、、、

逆に役者関係が濃くなって来る。 またそうなって欲しいと、、」

 

それは人情、だが<商売>じゃありません。 で、結局<企業>になり

切らずに終わる小企業が大多数。 いや、<大>企業だって。 最近の

例では日本ハムなど。  おお、<ラ・マンチャの演歌>、、

 

*   *   *

 

幸四郎氏は今回の公演の稽古に先立ち、メンバー一同に、脚本家デール・

ワッサーマンの言葉を読み上げました。 

 

 「不合理なことを試みようとする人間のみが不可能なことを成し遂げ

 得る。 きわめて簡単に言えば、<ラ・マンチャの男>というミュー

 ジカルは、ドン・キホーテであった男、ミゲル・デ・セルバンテスの

 不撓不屈な精神に対して捧げた私の敬意の表現である」

 

不合理なキャスティングを試み、念願を遂げた、のは幸四郎の不撓不屈。

素人だった私がディスク・タイプ・サーモスタットに挑んだのは思えば

不合理でしたが、成し遂げることが出来たのは不撓不屈の精神ゆえ、、

 

即ち幸運に恵まれれば、必ずしも Rational でない試みが当たることも

ある、、おや、私の悪い癖、あなたの思い出からずいぶん逸れちゃった。

友竹さん、ゴメンナサイ。 ご冥福、ずーっとお祈りしてますよ。

                          ■竹島元一■

   ■今週の<私の写真集から>は、 ★フォード3発機★

 

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